2025年9月23日から24日にかけて、字幕が「情報を伝えるテキスト」から「話者を区別する表現」に変わった。
前回(第5回)でSRT字幕の焼き込みが動いた。タイミングは合っている。BGMのオフセットも考慮できている。ただ、全話者のセリフが同じ白文字で表示される——ナレーターも、MCも、中の人も、見た目は区別がつかない。この状態を2日間で変えることになる。
フォントサイズから始まった
字幕の色づけより先に、フォントサイズの問題に手がついていた。
SRTの段階では固定値(font_size: 32)をそのまま使っていた。短い台詞ならはみ出さないが、長いセリフは画面に収まらない。特に縦型(YouTube Shorts)の1080x1920フレームでは、横幅が狭いぶん余計に問題になる。
9月23日、ef18651c「動的フォントサイズ計算機能の実装」で新しいモジュール subtitle_font_calculator.py(154行)が生まれた。中心にある考え方はシンプルだ——「台本の中で最も長いセリフが画面幅の90%に収まるフォントサイズ」を計算する。
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日本語の全角文字と英数字の半角文字では表示幅が違う。全角=1.0、半角=0.6として重み付けし、最長行の文字幅を求める。その値と画面幅・高さから逆算して「この幅なら何ピクセルのフォントが適切か」を導き出す仕組みだ。
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「幅制約」と「高さ制約」のうち厳しいほうを採用し、設定した最小・最大フォントサイズの範囲に収める。動画の解像度が変わっても正しく追従する。
ASS形式への昇格
動的フォントサイズの計算が動いたその日の夕方、a8b5e8f5「焼き込み字幕の色づけ(WIP)」というコミットが入った。SRTから ASS(Advanced SubStation Alpha)への移行の起点だ。
SRTは HH:MM:SS,mmm --> HH:MM:SS,mmm の行に続いてテキストを書くだけのシンプルな形式で、スタイリングの自由度がほぼない。一方、ASSは字幕に本格的なスタイル定義を持つ。ファイル内に [V4+ Styles] セクションがあり、話者ごとにフォント・文字色・縁取り色・配置を個別に設定できる。
既存の video_audio_merger.py には _srt_to_ass() という変換関数が既にあった——SRTを読み込んでASSに変換し、FFmpegで動画に焼き込む流れは作られていた。ただし全話者が同じ “Default” スタイルを使っていた。ここに話者ごとのスタイル定義を追加することが次の課題になった。
色変換の数学
ASSのスタイル定義で厄介なのは色の表現方式だ。HTML/CSSでは赤は #FF0000(RRGGBB順)だが、ASSは 0000FF(BGR順=BBGGRR)と逆並びになっている。
speakers.json の色設定は素直なHTML形式で書きたい。だから変換関数が必要になった。
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シンプルに見えるが、これを間違えると色が想定と全く違う見た目になる(赤が青になる)。後のテストで6パターンの変換ケースを網羅的に検証しているのはそのためだ。
speakers.json に色が生えた
これまで speakers.json は話者名・VOICEVOXの話者ID・読み上げ速度を持つファイルだった。ここに color(文字色)と outline_color(縁取り色)が加わった。
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このファイルは音声合成の設定でもあり、字幕のデザイン定義でもある。話者の「声のプロファイル」に「見た目のプロファイル」が統合された形だ。
_srt_to_ass() の中でこのファイルを読み込み、[V4+ Styles] セクションに各話者のスタイル行を動的に生成する。
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各 Dialogue: 行には Style フィールドがあり、そこに話者名を入れることで対応するスタイルが適用される。
正規化キーという落とし穴
ここで一つ問題が出た。
台本の話者名は "ナレーター: テキスト" という形式で書かれており、処理中に小文字正規化されてキーとして扱われていた("ナレーター" → "ナレーター"自体は日本語なので変化しないが、英字話者名の場合は "MC" → "mc" になる)。一方、スタイル定義には元の話者名("MC")を使わなければならない——ASSの Style: 行と Dialogue: 行の Style フィールドが一致しないとスタイルが適用されない。
3975d4c8「Task 1.1実装」で追加されたのが _restore_original_speaker_name() ヘルパー関数だ。正規化済みのキーから元の話者名を復元する。日本語文字の有無で判定したり、よく使われる英語話者名のパターンを持ったりする実装になっている。
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こういう「大文字小文字の往復」や「正規化と逆引きのミスマッチ」は、複数の処理段階を経るパイプラインで起きがちな問題だ。単体テストを書いて固めた理由はここにある。
TDDで固める
9月24日、実装と並行してテストが書かれた。tests/test_task_1_2_style_generation.py(113行)が新規追加されている。
色変換の正確性確認(_format_ass_color("FF0000") == "0000FF" など6パターン)、speaker-specific styleが正しいASSフォーマットで生成されるかの確認、エラーハンドリングの確認——実際の出力ファイル sample/output.auto.ass での統合テストも含めて、全テストケースで動作確認済みとなったのが 96eae720「ASS字幕話者別スタイリング機能の実装完了」だ。
コミットメッセージに「✅ sample/output.auto.assで実動作確認完了」と書いてある。最終的に生成されたASSファイルの [V4+ Styles] セクションに MC と ナレーター それぞれのスタイル行が現れ、各 Dialogue: 行のスタイルフィールドが正しく話者名を参照していることが確認された。
2日間で積み上がったもの
9月23〜24日に実装されたものを整理すると3点になる。
台本から最長セリフを検出して動画解像度に応じたフォントサイズを計算する動的フォントサイズ計算(subtitle_font_calculator.py、154行)。HTML色形式からASS BGR形式への色変換を含む、話者別ASS V4+スタイルの動的生成。そして正規化キーからの話者名復元を含むスタイルルックアップの修正。
speakers.json に2フィールド追加するだけで、話者ごとに色が変わる字幕が動画に入るようになった。視聴者がセリフを読まなくても「今画面の色からMCが話している」と分かる。字幕が単なる情報ではなく、演出になった瞬間だ。
次回予告
第7回は9月末から10月にかけての「近代化リファクタリング」へ進む。ffmpeg_runner.py によるFFmpeg実行の一元化、core/models/audio/video/utils パッケージへの分割、ruff・mypy・pre-commit の導入——第1回で「単一ファイル295行」だった main.py の面影がほぼ消えていく。
この記事は podcast-tool のコミット履歴を一次資料として書いています。引用したコミットハッシュ・時刻・コード構成は当時のリポジトリ状態に基づきます。